3DCGアニメーションからキャリアをスタートし、近年はビデオゲームの制作や、メディアアートの領域にも進出するアーティスト、デイヴィッド・オライリー。その新作が石川・金沢21世紀美術館の企画展『D X P (デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ』にて展示された。
オライリーの各作品を辿ってみると、なにか一貫したテーマが浮かび上がる。一方で、初期の「テクノロジーでこそ表現可能だった作品」という制御された作風から、徐々に「テクノロジーで制御できない世界を、テクノロジーによって表現する矛盾」へ突き進んでいるかに見える。
残念ながら、元日に発生した地震の影響で金沢21世紀美術館の展覧会ゾーンは現在閉鎖されている(2024年2月16日時点)。まさしくわれわれ自身が、「テクノロジーで制御できない自然、現実」に直面しているようだ。いま彼は、テクノロジーと人間の関係をどのように捉えているのだろうか? アイルランドにいるオライリーにオンラインで話を聞いた。
『DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ』
展覧会『DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ』は、金沢21世紀美術館で2023年10月7日にスタート。デイヴィッド・オライリーは、 宇宙の誕生であるビッグバンを「宇宙」「火」「水」「精神」の4つの世界に再編成したインタラクティブなインスタレーション『Eye of the Dream』と、人工生命をテーマにした映像作品『Artificial Life』を出品している。2024年1月1日に起きた震災の影響により、展覧会は現在休止中(2024年2月16日時点)。
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金沢21世紀美術館『DXP』展のさなかに起きた自然災害
—このインタビューまでに、日本の能登半島が大きな地震に見舞われました。オライリーさんの作品を展示している金沢21世紀美術館も、地震の影響で休館しています。(※2024年1月の取材当時。現在は一部営業再開している)
オライリー:ニュースを聞いてショックを受けました。振り返ると、私と日本の関係にはすごく奇妙なところがあります。
2011年に、福島県に関連するプロジェクトで展示をしたのですが、東日本大震災によって影響を受けました。2020年には福岡空港で、制作に6か月ほどかかった大規模なインスタレーションもありましたが、公開前に新型コロナウィルスによって空港が封鎖されてしまうということがありました。
私としてはそうしたことが繰り返されるな、という感じはあるのですが、日本の文化自体が災害のトラウマを経験しながら築かれているということもわかっているので、災害も文化も繋がっているとも思います。
—今回の地震は予想できないことでしたが、オライリーさんの作品を見ていても、人間には予測したり制御したりすることのできない、自然や宇宙の力について痛感させられるものがあります。
オライリー:人間よりも大きな力を前にすると、いかに私たちの存在が脆いのかを思い出させられます。とくにいまは、たとえば仮想空間では自分が無敵だとか、安全だとか感じることができるかもしれませんが、実際のところ命には限りがあり、儚いものです。今回のニュースにはもちろん大きなショックを覚えると同時に、命や人について考える視点を正される思いです。
デイヴィッド・オライリーが2017年に手がけたゲーム作品『Everything』。プレイヤーは原子や動物、惑星など万物になることができる。同年に『アルス エレクトロニカ』で大賞を受賞。
人工のものを 「Animate」し、視覚と聴覚の関係を掘り下げる
—あらためて、今回の『DXP』展での展示作品についてお伺いします。まず、宇宙の誕生であるビッグバンを表現した『Eye of the Dream』は観客の音に反応して変化するインタラクティブな作品です。どのように発想したのでしょうか。
オライリー:アニメーションというのは、イメージと音をどう組み合わせるかを試みてきた長い歴史があります。その意味で、私は視覚的なもの(ビジュアル)と聴覚的なもの(オーディオ)の関係をいかに抽象化するかということに関心がありました。
オライリー:本作に使われているオブジェクトは、すべて私が15年かけてつくってきたこれまでの作品群に使われた3Dモデルです。今回はインスタレーションとして、動くオブジェクトと音との関係をどのようにアレンジできるかということを考えました。
この作品の前身である、インタラクティブでないバージョンは、ドイツの抽象アニメーション作家であるオスカー・フィッシンガーに捧げています。イメージと音の関係を追った彼の作品からインスピレーションを受けました。
—もう1つの出展作『Artificial Life』は、「人工生命」をモチーフにした映像作品です。今回、このような題材を選んだ理由を教えてください。
オライリー:私のスタジオには、まだ発表していないさまざまな実験作品があるんですね。展覧会のキュレーターである長谷川祐子さんが私のスタジオに訪ねてきたときに、それらを見て「これを展覧会で見せたい」と選んだのが本作の原形です。そこで、短いドキュメンタリー映像のようにすることを提案し、現在のような作品にしました。
—人工生命は、古くからライフゲーム(※)など、数学者やエンジニアによって追求されたテーマですよね。しかし『Artificial Life』のアプローチは、そうした先人の研究とは違う印象があります。
※ライフゲーム:4つのルールから、生命の誕生や、進化、死をシミュレーションできるゲーム
オライリー:おっしゃるとおりです。私の作品では、人工生命をアニメーションというテクノロジーの観点から捉えています。
アニメーションというメディアは、いつもテクノロジーと関わってきました。実際にこの作品で見せているように、生命をシミュレーションすることにはすごく美的な性質がありますよね。この短い映像は、自分にとっての小さな実験なんです。どうしたら人工生命がアニメーションに関係できるのかの可能性を見せるつもりでつくったものです。
アニメーションは 「animate」、つまり何かを動かすこと、生命を与えることがその語源です。そういう意味で、本作が提示する、本当の生命と人工生命の違いや、その境界線は何かという問いは、アニメーションの根源にある問いとも共鳴するものです。
テクノロジーに支配されている状況への「警告」として、テクノロジーを使っている
—これまで、初期のアニメーションからビデオゲーム、メディアアートとさまざまな表現媒体を手がけています。そこにどのような意図があるのでしょうか。
オライリー:世界はどんどん変化していて、人々がアートを体験するメディアの形態も変わっています。表現というのはツールによって生み出されるものですし、さまざまな要素が絡み合った変化に応答するのがアーティストなのだと思います。
私はなかなか表現できないようなことを、どうやって自分という媒体を通して表現できるかということに関心があります。自分が一番幸せを感じるのは、世界に即興的に応答できるときなんです。なので、これまでも自分の作風は変わってきましたし、これからも変わっていくのだと思います。
デイヴィッド・オライリーによる、空に浮かぶ山を眺め続けるゲーム『Mountain』(2014年)
—近年のモチーフの変化についても伺いたいです。初期の作品では人工的なものをデジタルのアニメーションで扱う印象が強かったですが、最近では自然や宇宙など、人間がコントロールできないモチーフをビデオゲームやメディアアートで描くことが多いように思えます。
オライリー:モチーフの変化について、自分自身で分析しているわけではないのですが、私のテクノロジーに対する気持ちは、以前と比べて確実に変わってきていると思います。
かつてインターネットが登場したとき、私にとってそれは自由の象徴でした。なにより私が活動を始めた頃は、コンピュータはアーティスティックなツールとして機能するのだと証明することに注力していました。
その思いは変わらないのですが、いまはテクノロジーが社会の中心になっていますよね。GoogleやAmazonなど大企業に独占されて、大きくなりすぎて、ある意味で怪物のようになってしまった。そして人々の生活が機械に依存するようになり、種としての人類が不安定で危ない立場にいるのではないかとも思うんです。
その状況が逆説的に、私が作品をつくる動機になっていることもあります。人々に宇宙や自然や、そもそも「生きているとはどういうことか」を伝えるために、私はテクノロジーを使っています。つまり、警告のためのツールとしてテクノロジーを使うということです。そのような自分のテクノロジーに対する考えの変化が、モチーフの変化につながっていると思います。
オライリー:この20年間ほどを振り返って思うのは、テクノロジーが利益を追求する少数の企業によって発展してきたということです。そうした企業は、テクノロジーを発展させるだけではなく、テクノロジーがどのように人々に受け取られるのかというところまでをコントロールしていると思うんですね。
AIなど現在進化しているテクノロジーも、まさに企業が利益を追求するために発展しています。それは、人々の思考をコントロールすることにもつながると思うんです。そういう意味で、私たちがどのくらいそのような状況に意識的になれるのか、自分たちの意識の限界を超えられるかということが問われていると思いますし、それこそがまさにいま私が考えていることです。
人間の自律性に対する危機感、そして私たちの「幸福」とは?
—モチーフや作風の変化には、現代社会や人類が置かれた状況に対する危機感が反映されているのですね。
オライリー:いま問題なのは、テクノロジーが、私たちの気づかない、認識を超えた方法で人間の自律性をコントロールしてしまうことです。
どうしたら利益でなく人間の自律性を中心に考えながら、テクノロジーを発展させることができるのか。それがいまの私の関心ですね。
—お話を伺うと、私たちの人生もテクノロジーにコントロールされているだけなんじゃないかと疑問がわいてきます。だからこそ、「人の幸せ」とはなんだろうということも考えさせられます。
オライリー:幸福というのは、ポピュラーなテーマですよね。私の視点では、真実や覚醒、明晰さを追求することのほうがより重要だと思います。
エンターテインメントと芸術の境界線にも関連することかもしれないのですが、本当に素晴らしい作品というのは、人間を超えたすごく神々しい領域や、精神性に関わるようなところに近づくような経験をもたらしてくれるものだと思うんです。一方で、エンターテインメントというのはイリュージョンを深め、真実から私たちの気を逸らせるものです。
私がリニアなナラティブを語るアニメーション作品から、精神的な体験の可能性を探るアート作品をつくるようになっていったのも、そういうところと関連しているかもしれません。
オライリー:日本とは状況が違うかもしれませんが、ヨーロッパでは過去100年くらい精神性の領域というものが消滅していると思います。誰も神について語れない。
人類の歴史を振り返ると、自分よりも大きな何かにつながる、ということは生き方の一部だったのに、少なくとも先進国ではそれは少なくなってきている。あくまでも個人の喜びや満足を追求することが幸福であるという思考になっているように思います。
必要なのは、集団的に一体になる感覚ではないでしょうか。そういう時代だからこそ、変化したいまの人間に適した精神性が求められてくると思っています。
いま世界は変換の時期。過去の過ちを見つめ、新しいシステムをつくっていくこと
——最後になりますが、オライリーさんがこれからの世界や社会全体についてどのような展望を持っているのか教えていただけますか。
オライリー:いま、私たちが住んでいる世界はディストピアに感じられることが多いと思います。あらゆる次元で、これまでのシステムが崩壊して、新しいシステムが生まれてくる変換の時期だと思うんです。
ここで再確認しなければならないのは、現実の力というのはいつも循環しているということです。変化を繰り返したあと、最終的にすごくポジティブなところにたどり着くかもしれませんが、それまでに大きな痛みや困難を伴うでしょう。物事は良くなる前にさらに悪くなっていくと私は思っています。
ですが、ひとつ希望があります。変化が起こっているかぎり、次の世界の土台となるものをつくっていく機会でもあるからです。それこそがいま私たちがやらなくてはいけないことだと思います。
これまで私たちが犯してきたさまざまな過ちを考慮しながら新たなシステムをつくっていくこと。さらにそのような私たちの過去の過ちは、人間の知覚の限界や、認識できることの限界によって引き起こされてきていると思うので、そのことを考えたうえで変化を起こせたら、そこには希望があると思います。でも、どうなるのかわからないし、見てみるしかないですけどね。
Information
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イベント情報
イベント情報
『DXP (デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ』 2023年10月7日(土)〜2024年3月17日(日) 会場:石川県 金沢21世紀美術館 ※2024年1月1日に発生した地震の影響で、展覧会は休止中。交流ゾーンで一部の作品を展示する予定(2024年2月16日時点)
ゲストプロフィール
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デイヴィッド・オライリー
デイヴィッド・オライリー
デイヴィッド・オライリーはアメリカを拠点とするメディアアーティスト。これまでデザイン、アニメーション、インタラクティブアートを横断的に手がけてきた。また、スパイク・ジョーンズとコラボレーションした映画『her/世界でひとつの彼女』では、劇中に登場するビデオゲームの3Dホログラムも担当。さらには、『Mountain』や『Everything』などのシミュレーションゲームの制作でも知られる。
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葛西祝
ライター
葛西祝
ライター
「ジャンル複合ライティング」というスタンスで、ビデオゲームを中核に、映画やアニメーション、現代美術や文学、スポーツなど異なるジャンルを越境したテキストを制作する。共著として『インディ・ゲーム新世紀ディープ・ガイド──ゲームの沼』( Pヴァイン、2022)を執筆。
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