Material Intelligenceの情報フィールド「Material Matters」。創始者、イギリスの二人組による構想

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    視点を変える

2019年、グラント・ギブソンによりポッドキャストとして立ち上がった「Material Matters」は、シンプルなアイデアから始まった。 ポットキャストで、アーティスト、メーカー、デザイナー、建築家に特定の素材や技術について話を聞き、それらが彼らの人生とキャリアをどのように変えたのかを伝えていく。

ポットキャストが成長すると、グラントは旧友ウィリアム・ナイトと組んで、デザインフェアへと進化をさせる。2022年、二人は「Material Matters – the fair」を立ち上げた。

2023年、ロンドンにある展示スペース「Bargehouse」でデザインフェア『Material Matters』を開催した。 この場所は1990年代に工場の廃墟からイベント会場に生まれ変わった場所だ。製品、インスタレーション、マーケットプレイス、トークプログラムが行なわれたこの空間で、グラントとウィリアムにMaterial Mattersの歴史とアイデア、そしてデザインと素材の未来にどのように貢献しているかについて聞いた。

Material Mattersの成り立ち

―Material Mattersについて教えていただけますか?

ウィリアム:Material Mattersは若いブランドで、素材(マテリアル)を通じたコラボレーションとアイデアをオープンに共有し、議論し合える場です。

まだ将来の計画は決まっていませんが、現時点では二つの非常に重要な要素があります。一つは定期的にエピソードをリリースするポッドキャストです。もう二つ目は、『ロンドン・デザイン・フェスティバル』の期間中に開催されるリアルなフェアです。これからどのようにブランドを育てていくかを考えています。

ポッドキャストのアイデアの始まり

―ポッドキャストのアイデアはどのようにして思いついたのですか?

グラント:もともと私は、印刷物が好きなジャーナリストで、デザインや建築、クラフトを扱う「Crafts」という雑誌の編集をしていました。しかし、以前のように人々は雑誌を読まなくなったため、雑誌の編集を辞め、ポッドキャストを始めたんです。

物語を話すのが好きなので、新しい「読者」を見つける方法としてポッドキャストはもっともコストパフォーマンスが高いと思いました。

2019年に番組を開始したときは、聞いてくれる人がいるかどうかわかりませんでしたが、すぐにリスナーは増え、素材というトピックに需要があることが明らかになりました。そこからライブイベントを行なうことは自然な流れでした。

リアルな展示会へと進化

―リアルの展示会を始めるようになったのはどうしてですか?

ウィリアム:私たちがフェアを開始したのは2022年で、もともとグラントと私は主にロンドンに拠点を置き、長いあいだ『ロンドン・デザイン・フェスティバル』と関わってきました。

展示会で行なっていることは、ポッドキャストから得た経験とも関連しており、その一つは利便性です。私たちのポッドキャストは聞きやすく、深い内容であっても、リスナーに技術的な知識を求めることはありません。素晴らしい知識源になっています。フェアも同様に、豊富な専門知識にアクセスしやすいようになっています。

私は過去にデザインイベントをオーガナイズした経験があるので、イベントの開催方法について考えるのが得意でした。それぞれのプロダクトストーリーをポッドキャストと展示会で創造することを目指しています。

二つ目は、扱うコンテンツです。私たちは一般的な「デザイン」だけではなく、素材にも焦点を当てています。具体的なテーマや物語に焦点を当てることも、それを解放することもできます。展示スペースの各階には、素材の革新、デザイン思考、製品、産業応用、手づくりのクラフトまで、さまざまなストーリーがあります。

素材に焦点を当てる理由

グラント:「Crafts」という雑誌を編集していた私にとって、素材の重要性はつねに中心的なテーマでした。ポッドキャストを構想しているとき、ランダムに人々にインタビューするのではなく、エピソードを通じて人々を結びつけたいと思いました。

そうすれば素材との関係を通じて、ゲストの個人的なストーリーを聞くことができます。個人的なものと専門的なものの結びつきがMaterial Mattersの根底にもなっています。

世界もそのように変わっていきます。資源は有限なので、私たちは、何を使用しているか、どのように使用しているのかを考える必要があります。

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2019年に始まったポッドキャスト「Material Matters」

―素材はインターフェースのようなものです。どんな人にも物語があるように、建築におけるファサード(建物の正面)もまさにそうです。そしてインターフェースは、その背後にあるストーリーや地域性、文化、固有のコミュニティを伝えていく必要があると思うんです。

ウィリアム:完全に同意します。Material Mattersでは、クラフトから建築、エンジニアリングまで、多彩な分野を横断したかったのです。素材はあらゆる分野をカバーします。ポッドキャストと素材を通じて、ジェンダーの問題から人種、さらには喪失のようなより個人的な問題に至るまで、あらゆる種類の問題について話します。

―展示のキュレーションはどのように行なっていますか?

ウィリアム: それは組み合わせです。昨年私たちが立ち上げたとき、絶対に参加してほしいと思っていた人々がいました。たとえば、「Solidwool」のようなブランド。小規模な実験をしているブランドとしてではなく、これらの素材が主流であることを強く意識していました。世界中でリサイクルアルミニウムを扱う「Hydro Aluminium UK Ltd.」のような企業も同じで、私たちにとって非常に重要な存在です。

最終的に私たちは、小規模の製造業者とデザイナー、そして大企業を組み合わせ、世界中から来る人とたちと会話し、彼らにとって最適な場所を見つけ出します。

デザインフェア『Material Matters』に出展された「ソリッドウールチェア」。ブリティッシュウールを使用したユニークでサステイナブルな複合素材

素材はコミュニティの基盤として

ウィリアム:Material Mattersにとってアクセシビリティは非常に重要です。 展示の参加者やポッドキャストのリスナーだけでなく、素材を生産し、展示する人、展示会主催者にとってもです。グラントと私はその中心にいて、人々を展示会でつなぎ、協力してアドバイスをすることができます。そしてそこからコミュニティが生まれます。

人々を集め、何が起こるかを伝えることはできますが、コラボレーションの機会や未知の可能性を制御することはできません。イベントは設定が非常に重要で、オープンな心と一つのものをつくり上げるために協力する意識を持って参加できるようにする必要があります。

デザインフェア『Material Matters』に展示された「ハイドロアルミニウム」

ウィリアム:現在、私たちは約40のブランドと協力しており、イベントのために全員と一緒に働いています。その一部には保険や積み込みなどの退屈な時間もありますが、重要なのは、それが再びストーリーテリングに戻ってくるということです。

私たちは彼らの素材、プロセス、市場での地位を理解し、それらすべてを表現するためのプラットフォームを提供します。

グラント:こうした関係はすでに長い期間続いています。たとえば、革の専門家ビル・アンバーグは、ポッドキャストで私が最初にインタビューした人でした。私たちにとって素晴らしいのは、彼らの作品が発展していくのを見れることです。

またここは、ブレイク・ジョシュアがロイヤル・カレッジ・オブ・アートを去ったあと、作品を展示した最初の場所になりました。たった一年後でも彼の作品からは大きな進歩が見られます。

デザインフェア『Material Matters』で展示されたビル・アンバーグのスタジオ

持続可能性よりも、「Material Intelligence」というフレーズ

―現在、多くの企業が「持続可能性(Sustainability)」について話しています。そして、この会場自体もそれを体現しています。その持続可能性についての考えを詳しく教えていただけますか?

ウィリアム:展示会の立ち上げを決定したとき、私たちには、やりたくないことがいくつかありました。その一つは、都市の郊外にある大きな格納庫のような場所で、シェルスキーム(パッケージ化されたブース装飾)を持ってフェアを開催することでした。私たちは、炭素が多く埋め込まれた建物の一部になるというアイデアが好きなんです。

―持続可能性に焦点を当てた出展者が多いのは意図的ですか? また、持続可能性に対する世間の認識が不足しているのはシステム的な問題でもあると思います。

企業はある程度関心を持っていますが、環境よりもコストをより意識しています。これを前進させるためには何が必要だと感じていますか?

ウィリアム:良い質問ですね。「持続可能性」という言葉は、悪用される危険があると警戒しており、私はどちらかというと「Material Intelligence(マテリアルに関する知識や見識)」という言葉を好みます。

Material Intelligenceについて話していると、廃棄物の流れから素材を得たり、リサイクルをしたりする人々と関わることになります。循環性や再生可能デザインについて話し始めることができる有効な言葉です。

再生デザインにおける廃棄物の利用——「マテリアル インテリジェンス」の概念

そしてこれは、Material Mattersが知識と洞察を共有するためのスペースとしてだけでなく、人々の認識を変え、態度を変えるための場としても重要である理由です。

私たちはこうしたストーリーを前向きな方法で伝えたいと思っています。持続可能性を取り巻く言葉は否定的になることがありますが、Material Mattersは何が可能なのか、未来がどのようなものかを伝えるためにあります。

私たちはつねに「新しい」ものについて話す必要はありません。展示には先端的な素材もありますが、木材、麻、菌糸体といった何千年ものあいだ使用されてきた素材についても話します。デザイン業界の一つの欠点は、新しいものへの絶え間ない固執です。私たちは昔からある重要な素材を忘れてはいけません。

古くからある素材の認識を変え、活用していく

―将来も長く活用されると思う伝統的な素材は何ですか? また、新しい素材はありますか?

ウィリアム:持続すると思うものはすでに古くからあるもので、証明されてもいます。コルクもその一つです。素材の価値と、その素材ができることの価値を、人々が認識するかどうかに関する問題だと思います。

グラント:麻は興味深いです。人々は麻を吸えると思っているし、『シンプソンズ』を見て笑っています。それでも麻は素晴らしい作物です。難しい土壌でも成長しますし、農薬を必要としません。作物のすべての部分を使用することができ、パンから建築まであらゆるものに活用することができます。

イギリスでは現在、麻を栽培したい場合、内務省の許可が必要ですが、麻はそのような認識を変える必要がある素材の例だと思います。

―将来、麻から派生した新しい素材がもっと出てくると思いますか?

ウィリアム:そう願っていますね。最先端という意味では、技術の進歩です。私たちが展示している素材なかには実験室から出てきたものもあります。出展者は、自分たちの素材が将来何を可能にするかについて話すためにここにいます。

グラント:素材だけでなく、設計システムにも関係しています。私たちはたくさんの資源を持っていますが、それを正しく使用できていないので、修理やリサイクルが簡単にできるように製品を設計する必要があります。

ポリエステルを再利用する方法を見つけ、チリの衣服の山に埋もれてしまわないようにする必要がある。素材そのものだけでなく、それらをどのように使用するかが重要です。

技術の進歩はMaterial Intelligenceの浸透にも

―ここには3Dプリンターやそのほかのツールがいくつかあり、それによってCO2排出量を削減することができますね。

ウィリアム:はい、私たちは廃棄物を最小限に抑えようとしています。ものを削り出すのではなく、3Dプリンターのように素材を加えていくほうが、余分な部品が少なくなります。

また、ローカルに焦点を当てることとも関係しています。 誰かがどこかで何かをデザインしていたとしても、それが地元で印刷されるかも知れません。3Dプリンターであろうと、世界のどこかのファブラボに送られたデザインであろうと、レーザーカットであろうと、テクノロジーの使用がカギで、流通のモデルも変わっています。

―これらはすべて、コミュニティの構築という目標に役立ちますか? Material Mattersは人材、デザイナー、コラボレーションの機会など、業界での発展に役立つ資源がそろっていると思います。

日本は島国では、資源をほかの場所から運んでくる必要があり、物流は歴史的にも問題でした。しかし、今日では、世界中の人々と協力することができる。これがデザインと素材の未来だと思うんです。

ウィリアム:それはグラントがいうシステムに関するポイントと関連します。ここ数日間、私たちは可能性について信じられない話を聞きました。しかし、システムの使い方があまりにひどいという話もたくさん聞きました。

もっともわかりやすいのは、島から物を出し入れする必要性です。その最たる例が、製品、資源、素材が地元で利用可能であるにもかかわらず、輸送に莫大なリソースが費やされているケースです。経済的、政治的、またはそのほかの理由で、持続可能性を高める機会を逃しています。

素材は、必ずしもどのように使用するか、形を作るか、ものを作成するかだけではありません。その素材がもっとも効果を発揮する場所はどこか? これからは、スケーリングの概念も考えることが重要なのです。

人工知能、デジタルツインやメタバース、XRプラットフォームなど、これらの技術の進歩がコミュニティを補完し、世界中の人々がコミュニケーションを取り、Material Intelligenceを交換し合うことが可能になります。新しい技術と既存の知性のあいだで、インターフェイスとして活用できることは非常に多いのです。

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