風景写真家を魅了した「バーチャルフォトグラフィー」の世界とは? 横田裕市に聞く

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    視点を変える

    空間を持ち運ぶ

ゲーム内の撮影機能を用いてプレイ画面の写真を撮る「バーチャルフォトグラフィー」。SNSでゲームを画像検索すると、プレイ中の場面とは思えないような迫力ある画面構成の作品や、本物と見紛うほど繊細で美麗な作品が、大量に見ることができるだろう。写真家の横田裕市は、そんなにわかに盛り上がりを見せるバーチャルフォトグラフィーに魅せられた一人だ。世界各地で風景を撮影し、Appleの広告にも採用されるなど活躍してきた横田は、なぜ「バーチャルフォトグラファー」を名乗り、リアルとの壁を乗り越えたのか? その魅力と可能性について、話を聞いた。

写真家として、フォトモードを遊ぶ

─もともと風景写真を中心に活動されていた横田さんが、バーチャルフォトグラフィーと出会ったきっかけは何だったのでしょうか。

横田:コロナで写真の仕事が減った時期に、一気に時間が空いてしまったことですね。もともとゲームが大好きだったんですが、大人になると忙しくてなかなかプレイする時間がとれていなかったんです。そこで自粛期間を「大人の夏休み」ととらえて、久々にゲームを色々やってみようかなと。そのときにプレイした『ワンダと巨像』のPS4リメイク版が、バーチャルフォトグラフィーと出会うきっかけになりました。

横田裕市

横田:かつてこの作品のフォトコンテストが開催されていたということをインターネットで見かけて調べてみると、どうやら「フォトモード」という機能があるらしいと。早速実際に触ってみると、思った以上に撮影ツールとしての出来がよかったんです。すぐに「写真家としての自分のスキルを活かしたら、これでどんな写真が撮れるだろう」と興味が沸きました。

最初はSNSにアップしていたんですが、『ワンダと巨像』の制作者の方に届いたり、ゲーム系メディアに掲載していただいたりと、かなり反響がありました。ユーザーの方々からも「プロの写真家が撮ったらこんなふうになるんだ」と興味を持ってもらえて、もっといろいろな作品で撮ってみたいというモチベーションになりましたね。

1枚の写真を撮るのに1時間かかることも

─具体的にどのようにバーチャルフォトグラフィーの撮影を行なっているのか、実際に横田さんが撮影されたバーチャルフォトグラフィーを3枚ほど選んでいただきました。まず1枚目は『ファイナルファンタジーVII リメイク』(以下、『FF7R』)の写真ですね。

『ファイナルファンタジーVII リメイク』
© 1997, 2020 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA/ROBERTO FERRARI

横田:『FF7R』はフォトモードが搭載された作品です。私は昔から『FF』シリーズが大好きだったので、愛着のあるキャラクターをかっこよく撮影できるのは嬉しかったですね。

この写真はまさに戦闘中の場面ですが、奥に主人公のクラウド、手前にライバルのセフィロスを配置することで奥行きを出しました。剣から出ている光線のモーションだったり、クラウドの表情だったりの見え方を意識して構図を決めました。

─光のエフェクトなどは撮影用の加工機能ではなく、実際の戦闘アクションにおいて発生したものでしょうか。

横田:そうです、実際にゲームでプレイ中に生じているものですね。ちなみに『FF7R』のフォトモードはそこまで自由度が高くなく、アングルを無際限に調整することも難しいので、良い構図をつくるためには自分で頑張ってプレイする必要があります。この写真も、何度も何度もやり直して、ちょっとずつ試行錯誤しながらベストなタイミングを探していきました。たしか、1枚撮るのに30分から1時間ぐらいはかかっていると思います。

─2枚目は『Ghost of Tsushima』の写真ですね。

『Ghost of Tsushima』
©2020 Sony Interactive Entertainment LLC. Developed by Sucker Punch Productions LLC.

横田:『Ghost of Tsushima』は、日本の時代劇の影響を受けた海外のクリエイターによるゲームです。グラフィック自体ももちろん綺麗なんですが、文化・風習など専門家の監修をつけていて、日本の自然の美しさがよく再現されている点が素晴らしいですね。その魅力が伝わるように、光と影が印象的な引きの絵を選びました。

このゲームのフォトモードは非常に優秀です。たとえば天候や時間帯、風の強さなどもかなり細かく調整ができ、理想に近い写真を自由に撮れます。この写真では、森のなかで佇む侍の様子を、「もやのなかの夕暮れ時」というシチュエーションで幻想的に演出しています。

バーチャルのカメラから現実の写真に出会う時代に

─最後に『Horizon Forbidden West』の写真を解説いただけますでしょうか。

『Horizon Forbidden West』
©2022 Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Guerrilla. Horizon Forbidden West is a registered trademark or trademark of Sony Interactive Entertainment LLC.

横田:これを撮影した場所は、じつはオープニングチュートリアルのフィールドなんです。通常であれば、さっと通り過ぎてしまうのですが、そんなところですら道端の植物や昆虫にいたるまで完璧につくり込まれているのかと驚きました。細部の至るところに、クリエイターたちの息遣いが感じられます。

ちなみにこの作品のフォトモードでは、現実のカメラレンズと同じように焦点距離や絞りを選べるようになっています。被写体深度を変えて、ボケさせたりといったこともできるわけですね。これで一層、普段の撮影と同じ感覚で撮ることができます。

ただ、この設定はわれわれ写真家にとってはありがたいのですが、現実のカメラにあまり触れたことがないユーザーにとってはハードルが高いようです。実際、バーチャルフォトグラフィーを撮っているユーザーの方々と交流すると、よく「レンズの設定について教えてください」と聞かれたりします。でも自分からすると、現実のカメラに触ったことがないのに、ゲームの写真をきれいに撮れているということが驚きなんですよね。ゲームをきっかけに写真と出会う人もこれからは増えていくんだろうなと思いました。

─ここまで3枚のバーチャルフォトグラフィーを見せていただきましたが、現実の写真と異なる特徴についてあらためて教えていただければと思います。

横田:現実には不可能な位置やアングルから撮影できるのは大きいですね。特に風景写真だと、せっかく目の前に絶景が広がっていても、地形的にベストな位置から撮影できないということがたまにあります。ゲームだとその制約がないのが嬉しいですね。

あとは、現実ではあり得ない気象現象の組み合わせなども可能です。『Horizon』シリーズだと、オーロラが出ているなかで、火山に雷が降っている場面があったりします。あとはオーロラをバックに鳥を撮影したりするのも、実際は無理ですね。現実のオーロラは長時間露光でシャッターを開けっぱなしにして撮るんですが、そこに鳥が飛んできても本来は残像しか残らないんです。でも、ゲームであれば、しっかり動きの止まった鳥が撮れる。オーロラと鳥の組み合わせは、ゲームでしかあり得ないんです。

─風景写真を数多く撮られてきた横田さんならではの視点ですね。

横田:海外とかで風景写真を撮ろうとすると、現地まで足を運んで、自分の撮りたい情景になるまで何日も待ったりする必要があったりもしますからね。その膨大な時間と手間をスキップできるので、自分の撮りたいイメージを試しやすいのはいいところかなと。

バーチャルフォトグラフィーを盛り上げるフォトコンテストの存在

─『ワンダと巨像』のときにもお話がありましたが、こうした高機能なフォトモードを搭載したゲームでは、メーカー側が力を入れてフォトコンテストなどを実施したりしていますよね。

横田:いまはそれが定着してきました。たとえば『Ghost of Tsushima』であれば、メーカーが「#TsushimaTuesday」というハッシュタグを用意しています。毎週火曜日になると、フォトモードで撮った写真をユーザーがアップして、いい作品は公式がフィーチャーしてくれるという企画です。公式が取り上げてくれるとユーザーとしてもモチベーションがあがりますよね。

海外だと『The Virtual Photography Awards』など、世界的なコンテストも開催されています。メーカー側がスポンサーについて、もはやひとつの写真ジャンルとして確立されている印象です。もう局所的な流行ではなく、カルチャーとして広がりを見せていると感じています。

─日本ではまだそこまでのムーブメントには至っていないようですが、これからバーチャルフォトグラフィーが普及していくうえで、ボトルネックになっている箇所はどこなのでしょうか。

横田:やっぱり権利の問題は無視できないですよね。バーチャルフォトグラフィーの展示やプリント販売なんかは、やって欲しいという声もあったりするんですが、現状はなかなか難しいです。PS5でいえば、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が権利をすべて持っているので、商業的にやるなら必ず許可が必要です。たとえばそうした権利をライセンス式にして、収益の一部をメーカーに還元するといったことができたら、今後もっと盛り上がっていくと思うんですけどね。

─もし権利の問題が解決された場合に、バーチャルフォトグラフィーを用いた企画でやってみたいことはありますか。

横田:バーチャルフォトグラフィーの写真展はぜひやってみたいです。VRChatなどのバーチャルワールド内での展示はすでにありますが、リアルの空間で展示してみたいなと。SNSに載せた写真をスマホで見るのと、大きなサイズにプリントした写真に現実の空間で向き合うのとでは、体験としても全然違いますからね。もし誰もやらなかったら、私個人で無償でやってもいいかなと思ったりもしています。

VR空間にもバーチャルフォトグラフィーの波

─VRChatのお話が出ましたが、バーチャルフォトグラフィーの潮流として、ゲームの写真と同じぐらい盛り上がっているのが、VR空間で撮影された写真だと思います。横田さんは以前「VRフォトコンテスト」の審査員も務められていましたが、VR空間での写真についても教えていただけますでしょうか。

横田:私が普段撮っているようなゲームの写真は「インゲームフォトグラフィー」と呼ばれたりもしますが、現状はゲームの写真もVR空間の写真もどちらも「バーチャルフォトグラフィー」と呼ばれていますね。VR空間も現実にはあり得ない風景が色々と見られるので、写真の題材としては面白いと思います。実際、VRChat界隈でバーチャルフォトグラファーとして活動されている方も増えてきている印象です。

コンテストのときは、「プロの写真家兼バーチャルフォトグラファー」として呼ばれたということを意識して、シンプルに写真として優れているかどうかを審査基準にしていました。ほかの審査員はVRChatのコミュニケーション的な側面に通じている方々が多かったので、アバターの魅力が出ているような写真はそちらの方々に任せようと。結果的に、ワールドを引きで見せるような写真を多く選ぶことになりました。

─横田さんご自身は、VR空間のほうでやってみたいことは何かありますか。

横田:バーチャルワールドのなかでフォトウォークができたら面白いですよね。現実世界のフォトウォークだと、日程を合わせて現地に足を運ぶ必要があります。アクティビティーとしては楽しいんですが、気軽にみんなで集まるには少しハードルが高いですよね。でもバーチャルであればどこからでも参加できます。バーチャルフォトグラフィーを撮りたい方々向けに、VRChat内で写真教室をやっても面白いかもしれません。

─バーチャルフォトグラフィーに関して今後挑戦してみたいことを教えてください。

横田:メーカー公式のアートブックに携われたら嬉しいですね。海外だと、フォトモード開発のアドバイザーとしてバーチャルフォトグラファーが参加するケースもあるので、そういう機会があればぜひチャレンジしてみたいです。先ほどの『Horizon』シリーズではキャンペーンの写真撮影を私が行なったりしていたんですが、そうしたプロモーション用のバーチャルフォトグラフィーにももっと携わりたいです。

─最後に、これからバーチャルフォトグラフィーが普及するためには何が必要だと考えていますか。

私はつねづね「すばらしいゲームほどフォトモードを搭載してほしい」と思っているんですが、有名タイトルでもフォトモードのない作品はまだ多いです。もちろんスクリーンショットは撮れたりするんですが、作品として1枚の写真をつくり込むにはちょっと物足りません。フォトモードが定着して、「大好きなゲームで写真を撮る」という楽しみが広まったら、バーチャルフォトグラフィーはさらに盛り上がると思っています。

ゲストプロフィール

  • 横田裕市(よこた ゆういち)

    横田裕市(よこた ゆういち)

    福島県郡山市出身1985年生まれ、東京都世田谷区在住の写真家。2010年よりプロとして活動を開始。雄大な自然のスケールを伝える大胆かつ繊細な絵を得意とする。主に国内外の風景を撮影。観光誘致、地方創生関連の撮影のほか、記事執筆やSNSをはじめとしたWeb媒体でのPR案件も行う。国内外問わずその土地の風景そのものや文化・人々の魅力を世界に伝えることを写真を通して行なう。

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  • 松本友也

    ライター

    松本友也

    ライター

    1992年生。広報ライティングからコラム執筆まで。おもな関心領域は東アジアのポップカルチャーや言語文化。実績に寄稿『アイドルについて葛藤しながら考えてみた ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉』(青弓社、2022)、寄稿『アイドル・スタディーズ 研究のための視点、問い、方法』(明石書店、2022)。

  • 鈴木渉

    カメラマン

    鈴木渉

    カメラマン

    宮城県仙台市出身。山と野球と猫好き。

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