バーチャルとフィジカルの架け橋: パメラ・ゴルバンのデザインの未来像
伝統と最先端の融合
伝統と最先端を融合させるプロジェクトに深く関わってきたゴルバンは、ファッションとテクノロジーを組み合わせることの意味を理解している。「ファッションと装飾芸術は、私のキュレーターとしての活動を定義する重要な要素です」と彼女は説明する。例えば、上海で開催された日仏交流60周年を記念する展覧会では、フランス国内外の公共建築物の家具や装飾に使われた何万点もの家具やオブジェを所蔵するフランス国立装飾美術コレクション、モビリエ・ナショナルの有名なコレクションを紹介した。
クリエイターたちをインスパイアして奮起させることに熱意を持つゴルバンは、GEMINI Laboratory GLOBAL DESIGN AWARDSはまさにそのためのプラットフォームだと考えている。「技術や表現方法は、さまざまなベクトルに可能性があります。唯一の制限は、自分自身の想像力なのです」と彼女は言う。「すべては自分次第、あるいはこれに取り組む人次第なのです」。
想像力を引き出す
ゴルバンにとって、GEMINI Laboratory GLOBAL DESIGN AWARDSの最大の可能性は、応募者の無限のクリエイティビティを引き出すことにある。「決してあれこれ考えて自分自身の想像力を抑えつけないでください。心を開放し、思いつく限りのアイデアを表現することが重要です」と彼女は断言する。
バーチャルの世界では、デザイナーは物理的な世界に存在する重力や生産上の制約から切り離される。「バーチャル世界でおもしろいのは、現実世界にはまだ存在しないものを創造できることです」とゴルバンは言う。「だから、想像力を制約から解き放たなければならない」。
この不可能なものを想像する自由こそ、ゴルバンが最も興奮することだ。「作品の構造やデザインが現実の世界で実現するかどうかは気にする必要はありません。私たちの知らない世界を創造するのです」とゴルバンは勧める。
ゴルバンは、今後自身がプロデュースするバーチャルな展示や体験において、テクノロジーを駆使して現実世界に存在しない何かを表現するだろうし、テクノロジーはそのためにあるべきだと強調する。「テクノロジーを活用した展示体験というのは、テクノロジー自体が最終的な目的ではなく、むしろ、これまでにない新しいことを表現するためのツールとして使われる時に、最も成功を収めることができる。」と彼女は説明する。「そして、もしテクノロジーがデザイナーやクリエイターが自分自身を自由に表現する手助けになるのであれば、それが最も適した使い方なのです」。
五感と空間の融合
ゴルバンが思い描くデザインの未来像は、視覚的な要素だけにとどまらず、五感のすべてを巻き込んだ多感覚的な体験を取り入れたものだ。これまでのコラボレーションプロジェクトでも、その要素が散りばめられている。例えば、DRIES VAN NOTENの展覧会では、センティングデザイナーと協力して雨上がりの庭の香りを再現し、来場者は香りを通じてデザイナーの世界に浸ることができた。
「今日のバーチャル世界で驚くべきことは、視覚的な要素だけでなく、感情も含めて感覚を拡張できることです」とゴルバンは説明する。「そして、このGEMINI Laboratory GLOBAL DESIGN AWARDSでは、それが可能なのです」。
ゴルバンが思い描くデザイン体験は、一方通行ではなく多次元的なもの。私たちが芸術やファッションをどのように捉え、それらとどう向き合うのかという従来の常識を問い直すものでもある。

コラボレーションを通じて与えられる感動
ゴルバン自身はデザイナーではないが、彼女の強みはキュレーションし、他者をインスパイアすることにある。「私にとって重要なことは、どうすれば人びとを刺激し、実際以上にクリエイティブな仕事をさせられるかということなのです」。
彼女のキュレーターとしての役割は、クリエイティブマインドが輝くためのプラットフォームを提供することにある。他のクリエイターの作品からインスピレーションを得ながら、彼らが新たな表現の領域を探求できるよう導くことだ。「私がキュレーターになったのは、クリエイティブマインドを持つ人たちが実力を発揮し、自分自身をデザインできるような場所を提供できるようになりたかったから」と彼女は説明する。
驚くべきテクノロジーの力
歴史を振り返れば、技術革新が創造的なアプローチに変化をもたらした例は数多くある。現代では、人々は物理的な世界だけでなく、デジタルやバーチャルな世界にも存在している。ゴルバンは、先進的な素材やバーチャル技術を取り入れるデザイナーこそが、ファッション業界の未来を切り拓くと考えている。彼女は次のように述べている。「今日、私たちは実際の身体を必要としません。なぜなら、それはバーチャルに再現できるからです。しかし、技術が進歩しなければ、物理的な制約から抜け出すことはできません。バーチャル技術によって、私たちはその物理的な制約を超え、より自由で革新的な発想ができるようになります」。
ゴルバンのエキシビジョンは、来場者がより体験を楽しめ、デザインの新たな視点に目を向けられるよう、テクノロジーを見事に融合させている。マドレーヌ・ヴィオネの展覧会では、建築家とコラボレートして、デザイナーの複雑なパターンを3Dで視覚化し、従来の静的な展示では不可能だった、彼女のデザインの斬新さを理解できるようにした。

また、グーグルとのプロジェクトでは、ゴルバンはアート・ディレクターとして、布地に直接テクノロジーを組み込むという画期的なコンセプトに取り組んだ。日本で製造された特殊な糸を使ったこの布は、触ることでプログラムすることができ、照明や音楽をコントロールしたり、電話をかけたりすることもできるインタラクティブな素材へと生まれ変わった。
「大切なのは人間の力です」とゴルバンは強調する。「私たち人間はテクノロジーを使ってマジックを創り続けないといけないのです」。
バーチャル・ファッションとフィジカル・ファッションの動向
ファッション業界が進化を続ける中、ゴルバンはバーチャルとフィジカルな領域の境界線が曖昧になるような興味深い進歩を目にしてきた。オランダのファッションデザイナー、イリス・ヴァン・ヘルペンは、3Dプリントを取り入れ、シルエットに新しい視点を加え、従来の衣服の概念に挑戦している。
またゴルバンは、パリに限らず世界中で、バーチャルな要素がフィジカルなファッション体験に組み込まれる傾向が強まっていると感じている。拡張現実の試着体験から衣服のデジタルツインまで、2つの世界の境界は急速に溶けあってきているのだ。

クリエイターへのメッセージ
ゴルバンは、GEMINI Laboratory Global Design Awardsへの参加を目指すクリエイターたちへ、簡潔だが重要なアドバイスをしている。「自分がすでに持っている知識や技術は一旦忘れて、ぜひ新しいことに挑戦してください。人びとに夢を与えてください」。
というのも、新しいことに挑戦するときは白紙の状態から始めるべきだとよく言われるが、ゴルバンは私たちが本当の意味で白紙の状態ではないと指摘する。「私たちには過去の経験やそこから得た知識が必ずあります。それは常に私たちの中にあるものなので、取り払うことは難しいのです」と彼女は説明する。
しかし、ゴルバンは多くのデザイナーが過去の経験や知識を使って画期的なものを生み出すのを見てきた。例えば、バイアスカットの使い方に革命を起こしたマドレーヌ・ヴィオネ、デザイナーのサインの役割に異議を唱えたマルタン・マルジェラ、厳格なカッティングやパターンメイキングの教育方法で技術的・美的限界を押し広げたアレキサンダー・マックイーンなど。「このように、過去にすでに存在していた技術や要素を駆使してファッション業界は一歩ずつ前進しています。そして、それは一種の新しいパズルのようなものです」とゴルバンは言う。「そして、そのパズルは、デザイナーが独自の経験と文化的慣習とを融合させることで完成します。これらのパズルのピースがどのように組み合わされるかによって、スタイル、コンセプチュアル、フィジカルを問わず、まったく新しいものが生まれ、世界は変化していくのです」。
彼女はクリエイターたちに、未知のものを受け入れ、先入観にとらわれず、好奇心と探求心を持ってデザインに取り組んでほしいと感じている。「それは難しいことかもしれませんが、それはあなたがすでに思い描いているものを打ち破るために必要なことなのです」と彼女は言う。
ゴルバンが描くデザインの未来は、境界を超えてバーチャルとフィジカルを融合させ、多感覚に訴える体験だ。ゴルバンはクリエイターたちに、想像力を膨らませ、テクノロジーの無限の可能性を追求し、その創造物で世界を驚かせ、刺激するよう呼びかけている。
「このコンペティションで最も重要なのは、自分の知識や経験を一旦忘れ、まったく新しいものを創造すること。それこそが、私がこのコンペティションで最も期待していることです」と彼女は締めくくる。
まもなくGEMINI Laboratory Global Design Awardsの審査が始まる。世界は、斬新で既存の枠にとらわれないデザインの登場を心待ちにしている。
アワード概要
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GEMINI Laboratory GLOBAL DESIGN AWRDS
GEMINI Laboratory GLOBAL DESIGN AWRDS
「ミラーワールド」の実現を目指す共創プロジェクト「GEMINI Laboratory 」が、初のデザインアワードを開催する。 いま、仮想世界(バーチャル)と物理世界(フィジカル)は重なりつつある。テクノロジーと個人の創意が生成し続ける、バーチャルな「質感」や「かたち」。それらは「音」や「匂い」や「時間」、果ては「知能」すら内包しはじめている。 GEMINI Laboratoryが構築しているプラットフォーム「AltField」は、多層世界が作用し合うオルタナティブな情報空間を共有・編集可能にすることで今までにない、新しいデザインを可能にするデータライブラリーだ。 バーチャルとフィジカルの地平が溶け合う時代における、新しいデザインのアプローチを具体的なアイデアとともに募集したい。 五感、時空までも横断して素材を捉え、新たな世界観を構築しよう。 応募開始:2024年2月15日(木)12:00(日本時間正午) 応募締切:2024年4月29日(月)12:00(日本時間正午)
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Saki Hibino
インタビュアー
Saki Hibino
インタビュアー
ベルリン・パリを拠点とするエクスペリエンスデザイナー、リサーチャー、キュレーター、ライター。Hasso-Plattner-Institut Design Thinking修了。 アート、デザイン、テクノロジー、エコロジーなど領域を横断するプロジェクト企画、リサーチ、マネジメント、コーディネーション、執筆などを国内外で手がける。 近年は、気候変動や環境メディアの政治性を考察するキュラトリアルプラットフォーム「The well tempered」において、「Sérum Radiance」(Frac Ile de France、Fondation Fiminco、パリ、2023)、「Daisy World」(Espace Niemeyer、パリ、2023)、「Omen Central」(soft power、ベルリン、2023)での展覧会やパフォーマンスイベントの共同キュレーションを担当。その他、Volksbühne(ベルリン、2022)、Literature Forum at the Brecht House(ベルリン、2023)でのレクチャーパフォーマンス、グループ展「la chambre cocon」(Cité internationale des arts、パリ、2023)や国際シンポジウム「Re-Encountering Animism - Arts of Relating with the Worlds of Life」(Online, 2022)などの企画リサーチ、キュレーションに携わる。『WIRED JAPAN 』『美術手帖』などのアート誌に寄稿も行う。
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細谷元(Livit)
細谷元(Livit)
ZBrush、3ds Max、Houdini、UnrealEngine4/5を活用したコンテンツ制作プロジェクト(VR含む)などに従事。現在は、生成AIアプリケーション開発、RAG手法の最適化研究に注力。
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