Robloxの「ローポリ」ビジュアルからWolf Digital Worldの超リアルなアバターまで、メタバースの基礎とその未来を築いている主要なプレーヤー、そこで注目されるイノベーション、そしてメタバースの発展が生み出すデザインについてまとめました。
はじめに
メタバースはまだまだ発展途上で、実のところメタバースという単語はウェブスター辞典にもいまだ掲載されていません。それでも、これまでの研究と開発によってこの新しいデジタル空間の基礎は築かれてきました。それを支える技術の発展とともに、これからも進化を続けていくことに間違いはありません。
分析
今後はデジタルとフィジカルが融合し、パソコンやスマホの画面上の世界から、いつでもどこでもアクセスできるデジタル世界へと移行していきます。現在のテクノロジーにおいて、メタバース上で構築できるデザインには限界があるものの、デジタル世界のデザイン自由度そのものは、フィジカルよりも高いといえます。
テクノロジーが進化し、高精細でリアルな表現に対応できる状況が生まれれば、現実の世界に想像力豊かなデジタル技術を取り入れた、さまざまなデザインが出現するようになるでしょう。
デジタル空間には限界がありません。デジタルアーティストや消費者は、自分のアバターやデジタル空間、そしてNFTを自分の個性や気分に合わせてカスタマイズし、創造性を発揮できるようになっています。最新のテクノロジーには、より強力なレンダリングエンジンが搭載されていて、例えば、NVIDIAのOmniverseでは、DirectX RaytracingとNVIDIAのVulkan Ray TracingをサポートしたNVIDIA RTX GPUの搭載が必須です。NVIDIA Omniverse や Epic Games の Unreal Engine などの最新の技術では、メタバース上のアバターや仮想空間をよりリアルに表現できるようになってきました。
この動きをビジネスにつなげるために
ビジネスで手掛けている、あるいは使用するテクノロジーのクリエイション能力を把握すること、また必要に応じてこの能力を正確に理解している経験豊富な3Dデザイナーとパートナーシップを組むことが結果を出すために不可欠となります。
本記事では、メタバースを牽引する主なプレーヤーごとにその戦略や注目ポイント、そしてメタバースの進展とデザインの関係を考えていきます。
#Roblox
2006年のローンチ以来、大人気のオンラインゲームプラットフォームRobloxは、そのユーティリティソフトウェア、Roblox Studioとともに、子どもから大人まで幅広い世代に利用されています。Roblox Studioは、スマートフォン、タブレット、デスクトップ、ゲーム機、VRデバイスを使用してコンテンツを作成することができる、無料の没入型コンテンツ作成エンジンです。これは、Roblox独自のもので、軽量プログラミング言語であるLuaを改良したLuauを使用しています。グラフィックはローポリで、ウェブ用に最適化されており、それほど高い処理能力は必要としません。
✔︎チェックポイント:最も利用されているメタバースの一つであるRobloxは、ローポリのデザインを体験するための絶好の場でもあります。
#Meta
世界は2次元のスクリーンを超えて、仮想現実や拡張現実のような没入型体験に移行しており、ソーシャルテクノロジーを新たな段階へと進化させるだろうとMetaは述べています。2021年6月、Unreal Engine 4をベースにした共同ゲーム制作プラットフォームのCraytaを、Metaは買収しましたが、このCraytaでは、さまざまなスキルレベルのユーザが参加し、自身で作成したゲームをモバイルデバイスやデスクトップでプレイすることができます。これは、生成されるグラフィックが最小限のシステム要件で稼働可能であることを意味しています。Metaは、メタバースの主な市場としてマスマーケットに主眼をおいており、そこでの処理能力はそれほど高くないため、表現できるグラフィックの精度には限界があります。ただ、若年層など、それほど精度や専門性を要求する消費者でなければ、工夫しだいで十分エンゲージできる魅力的なコンテンツを提供できるでしょう。
✔︎チェックポイント: マスマーケットにおけるコンピューティング能力が向上すれば、それに合わせてデザインも進化します。Metaの提供するメタバースをひとつの指標とし、そこでデザインがどのように進化していくかを常にウォッチしておくと、状況に応じていつでも対応できるよう、準備ができます。
#Apple
Appleは2023年から2024年の間に、待望のVRヘッドセットとARグラスを販売開始すると言われています。このタイムラインで実現するかどうかはさておき、Appleが、これまでハードウェアの拡充と革新的な3Dソフトウェアの開発により、メタバースへの道を切り開いたことは疑いのない事実です。
Appleは、iPhoneやiPadの写真をARに適した高品質な3Dモデルに変換できる「Object Capture」などの独自のソフトウェアを開発してきました。これは拡張現実のために特別に作られたAppleのRealityKitフレームワークの一部で、写実的レンダリング機能を備えています。
さらに、最新のiPhoneやiPadには、すでに現実の空間をレーザーで測定する深度センサーLiDARが搭載されています。LiDARはARヘッドセットや自動運転車にも使われている技術で、これにより、3DモデルをiOSデバイスに最適化するAppleのAR作成キット「ARKit」を利用して、簡単に拡張現実を構築することができるようになります。その上、Appleのレンダリングエンジン「Metal」は、リアルで没入感のあるリアルタイム3Dグラフィックの提供を可能にします。
✔︎チェックポイント:メタバース上で高品質な3Dグラフィックを実現するべくAppleが展開する、ハードウェアとソフトウェアの包括的なエコシステムの提供を、市場は引続き注目していくことになります。
#Wolf3D
Wolf3Dは、ユーザがさまざまな仮想空間で使用可能なアバターを作成できるクロスゲーム・アバター・プラットフォーム「Ready Player Me」を生み出し、また、アバターを使った体験を簡単に構築することができるソフトウェアを開発者に提供しています。
2014年にエストニアで設立されたWolf3Dの最初のプロダクトは、ハードウェアベースの3Dスキャナーでした。同社は2万人以上の顔をスキャンすることで、高画質フェイススキャンの大規模なデータベースを構築しました。 この独自のデータベースにより、あらゆるデバイスで1枚の自撮り写真からバーチャルアバターを作成することができるディープラーニングソリューションを誕生させ、そのアバターをさまざまなゲームやバーチャルアプリで利用できるようにしました。Wolf3Dは、RTFKT、Tencent、Huawei、HTC、Vodafone、TCLなど、多くのテクノロジー企業と提携しています。
同社のアバターは、多様なゲームやアプリで使用されることを想定しているため、ローポリなデザインを採用しています。ゲームを動かすための高性能なコンピュータを必要とせず、より多くの人にゲームをプレイしてもらうことが可能です。
✔︎チェックポイント:Wolf3Dのアバターを、幅広いユーザをターゲットにしたゲームやバーチャル体験に組み込んで、複数のアプリやゲームで使用できるようなアプローチを検討してみるのもおすすめです。
#RTFKT
Nikeは、デジタルファッション&アクセサリーのブランド、RTFKT Studiosの買収を皮ぎりに、メタバースにおける存在感を急速に高めています。RTFKTの未来的なデザイン、新鮮な色の組み合わせやカラーエフェクトは、世界中の注目を集めています。
発表の中でNikeのCEOは、この買収は「スポーツ、クリエイティブ、ゲーム、カルチャーが交わる場所にいるアスリートやクリエイター」に寄与するだろう、と述べました。
RTKFTは、ゲームエンジン、ブロックチェーン認証、そして拡張現実などの新技術を使って没入感のあるバーチャル製品をデザインしますが、それらはすぐに現実の製品としてもリリースされていくことでしょう。同ブランドは、デジタルスニーカーから衣服、そしてコレクション可能なアバターまで、さまざまなアイテムを制作しています。これらのアイテムはNFTとしてブロックチェーン上に存在しており、ゲームや拡張現実など、さまざまなオンライン環境での利用が想定されます。
RTFKTのデザインは、とても魅力的です。大胆なグラフィック、グラデーション効果のある鮮やかな色、光沢のあるメタリックのアクセントなどが施され、スタイリッシュなフォルムとなって表現されています。未来的な感覚による色使いや素材感でNikeは競合他社を引き離すことができるとすると、このRTFKTとの協働の決断にもうなずけます。
✔︎チェックポイント:RTFKTは、デジタルアセット制作の分野において業界をリードしています。Nikeといっしょになることで生まれる強力なパートナーシップはもちろん、クリエイティビティやマネタイズの点においてもビジネス事例として参考になります。
#Daz3D
2000年に設立されたDaz 3Dは、変形、ポージング可能なヒューマンモデルと、NFT作成に特化した3Dモデリングソフトウェアとコンテンツを提供しています。トップブランドやイラストレーターにも使用されているDaz Studioは、プロアマ問わずグラフィックアーティストが作品を制作する際に、作業を効率化できる無料ツール。映画、テレビ、アニメーション、ビデオゲーム、ウェブデザイン、印刷物のイラストにも使用されています。米国に拠点を置く同社は、RTFKT(現Nike)のClone X NFTコレクション、Champion、Coca-Cola、Warner Brosのバットマンなどの3Dユーティリティを制作しました。Daz Studioは、Daz 3DのNFP(Non-Fungible People)など、複数の限定コレクションの作成にも使用されました。
同社の3Dマーケットプレイスには、Daz Studioをはじめとするさまざまな3Dアプリケーションにおいて相互互換性のあるアセットが500万点以上登録されています。趣味で楽しむ人からプロまで、あらゆる人が高品質な3Dレンダリングやアニメーションを作成できるツールにアクセスできます。カスタマイズ可能なコンテンツはどこにでもエクスポート可能で、ユーザフレンドリーなインターフェースで提供されている点が特徴的です。
この使いやすいソフトウェアと豊富なマテリアル・テクスチャ ライブラリにより、リアルなマテリアルレンダリングを可能にしています。
Daz 3Dは、便利で高機能な ツールを搭載しており、シーンや3Dオブジェクトのカスタマイズを可能にする汎用性の高いソフトウェアです。そのフィギュアプラットフォームとキャラクターエンジンは、キャラクターやアニメーションオブジェクトのディテールにこだわった作り込みを可能にしています。
✔︎チェックポイント:このアセットライブラリーは、さまざまな消費者に響く多彩なCMFデザインを生み出すために大活躍しそうです。
#Spatial
Spatialは、世界中のひとびとが作品を創作する中での発見や情報を共有できる、グローバルコミュニティを構築することを目的にしています。米国に拠点を置く同社は、プラットフォームにインポートできる3Dモデルの種類とテクスチャの規格を定めています。
Spatialのルーツはバーチャルワークプレイスで、2016年に設立されました。ワンクリックでNFTギャラリーや展示会を作成できるVR・Webプラットフォームを提供するベンチャー企業で、メタバースプラットフォームとしても豊富な機能を有しています。仮想空間内を構築するために必要なコンテンツはドラッグ&ドロップで簡単にアップロードすることができ、ユーザは動画や3Dモデル、自撮り写真をアップロードすることで、デジタルツインアバターを作成することが可能です。
Spatial では、コンテンツのアップロードに際して複数の方法を用意しています。ウェブアプリから直接Spatialにアップロードすることもできますし、MetaMask、Google Drive、OneDriveをSpatialと直接連携することもできます。また、新しいiOSデバイスのLiDARスキャナーを利用すれば、部屋やオブジェクトをスキャンして3Dモデルを生成することも可能です。
Spatialは流れる水などのアニメーションテクスチャには対応していませんが、透明テクスチャを使って、特定の設定をすれば再現できます。プリセットされたSpatialでホームロビーなどのテクスチャがサポートされているのは、Unityのシェーディングを利用しているためです。今後は、Unityのプラグインでカスタム環境を構築することを目指しています。
✔︎チェックポイント:Spatialを入り口として、充実した機能やツールを使って気軽にメタバースコミュニティに加わったり、3D環境やオブジェクトをデザインすることができます。
#NVIDIA Omniverse
NVIDIA Omniverseは、人気の3Dレンダリングアプリとの統合によってメタバースの基盤を提供する、実用性の高いシミュレーション・コラボレーションプラットフォームで、数多くのユーザに門戸を開いていくことになるでしょう。同社はメタバースを、「アーティストが世界にひとつしかないデジタルシーンを創り、建築家が美しい建物を建築し、プロダクトデザイナーが消費者のために新しい製品をデザインできる、没入感とつながりを生み出す共有仮想世界」と、捉えています。
メタバースに期待するような空間を、誰もが納得するような姿で実現するには、リアルな物理演算、写実的なグラフィックス、そしてAIアバターを提供するパワフルなエンジンが必要です。NVIDIA のGPUは、この3つを満たす重要な役割を担っており、リアルタイム・レイトレーシングなどの革新的な技術で写真並のリアルな3Dグラフィックスをメタバース上で実現し、同社の存在感は増しました。
NVIDIA Studioなど、さまざまなアプリが含まれているOmniverseプラットフォームは、意欲的なアーティストや業界の専門家が最適な3Dコンテンツを作成するために必要なツールを提供しています。独自のドライバ技術と共に、業界をリードするNVIDIAのGPUは、KeyShot、Cinema 4D、Adobe Substance、Blenderといった人気の高い3Dレンダリング・アプリケーションとの連携が可能です。
✔︎チェックポイント:インスピレーション溢れるクリエイティブな体験の提供に、NVIDIAの最先端技術が活用できます。
#Unity 3D
Unityは、インタラクティブなリアルタイム3D(RT3D)コンテンツの制作・運用に広く利用されているゲーム開発エンジンの代表格です。誰もが無料で利用できる3D制作ツールであることがUnityの大きな特徴です。個人のクリエイターも同社が提供する夢のような映像アセットを自由に利用することができます。
Unityは今やモバイル開発者の定番エンジンであり、AppleのiOSにも統合されています。iPhoneやiPadのようなデバイス用にゲームを作るには、デスクトップPCのものとは異なるアプローチが必要です。なぜなら、モバイルのハードウェアはPCのハードウェアとは異なったかたちで標準化されており、専用のビデオカードが搭載されたコンピュータのように高速でパワフルではないからです。
Unity は、PC ゲームをあらゆる場所、あらゆるデバイスでプレイできるように、グラフィックと処理能力を最適化するエコシステムを構築しました。これによりUnityは、よりリアルで高精度な3Dグラフィックを実現し、メタバースを制するレースにおいて有利なポジションに立っているのです。Unity はインタラクティブな 3D 体験を構築し、それを楽しむために必要なツールとソフトウェアを誰の手にも届くように広めました。さらに、Unity Proを使用すれば、リアルタイム3DやAR、VRコンテンツをHoloLensとOculusで展開することができます。 Unity のシニアバイス・プレジデントのJulie Shumaker は、「リアルタイム 3D とインターネットの合流地点はメタバースにあると強く感じている」と述べています。
Samsung、Dolce & Gabbana、Tommy Hilfiger、Vollebakといった主要ブランドと提携している、メタバースのパイオニアであるDecentralandもUnityで稼働しています。Decentralandは、そのデジタルワールドをさまざまなデバイスで利用できるように、ローポリのデザインを採用していますが、Unityが影などのディテールをより繊細に表現することを可能にしています。
✔︎チェックポイント:インタラクティブな 3D 体験のために最適化された、Unity ベースのApple の強力なテクノロジーをはじめ、このパワフルなエンジンでさまざまなデバイスを使用する幅広い層にリーチすることができます。
#Unreal Engine
Unreal Engine は、Epic Games が開発した 3D コンピュータ グラフィック ゲーム エンジンで、ゲーム開発者やクリエイターが、高精度のリアルタイム 3D コンテンツを作成するために活用しています。他の追随を許さないビジュアル、ツールセット、そしてパフォーマンスが特徴です。
Unreal Engineの使用料そのものは無料ですが、このエンジンを使用してゲームを販売する人であればロイヤリティベースの支払いシステムが適用されます。Unreal ゲーム エンジンは、もともと Epic Games の創立者 Tim Sweeney が、1998 年に発売されたFPS ゲーム Unreal のために作成したものです。このエンジンのコードは、何世代ものゲームを通じて拡張・改良されてきました。そして時を経て、プロのゲームクリエイターの間で、このエンジンを使って作られたゲームが次第に注目を集めるようになったのです。
同社が開発したMetaHumanは、高精細なデジタルヒューマンのデータベースで、クラウド上の無料アプリで簡単に作成することができます。ユーザは自分に似せたアバターを自由に造形することが可能です。このツールに加え、写真のようにリアルな16,000以上の3Dオブジェクト、マテリアル、テクスチャーアセットを提供するMegascanライブラリも搭載しています。
Unreal Engine は、高品質なリアルタイム レンダリングを提供しており、さまざまな業種で使用できる利点がありますが、このエンジンを最大限に活用するには、高性能な GPU とグラフィック カードの搭載が推奨されています。最近リリースされた Unreal Engine 5 は、最小限の修正でモバイル ハードウェアだけでなくAndroid や iOSもサポート予定です。
✔︎チェックポイント: 信頼性の高い、このゲームエンジンを使いこなせる開発者たちと協力することで、高品質な作品の提供が可能です。
アクションポイント
実現可能な手段を選ぶ
自分たちの目的に合ったテクノロジーはなにか、そのソフトウェアとハードウェアになにが実現できるのか、雰囲気やデザインを見極めた上でデジタル作品を構築しましょう。
フィジカルディテールをデジタル要素で強調する
現実に見慣れたディテールが、デジタルならではのファンタジックな要素で強調されることで、デジタル素材は最もインパクトのあるものになります。
専門家と連携する
より忠実なグラフィックを実現するために、適切なハードウェアやソフトウェア、インパクトのあるグラフィックを提供できる素材ライブラリとともに、専門的なスキルセットを持った人材の確保が重要です。
未来に投資する
テクノロジーは加速度的に進化しているため、この分野のソフトウェアとハードウェアの開発を常にウォッチし、未来的でリアルな体験を提供できるソフトウェア、機器、サービス、人材にいつでも投資できるようにスタンバイしておきましょう。
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