連載「未来を予測するための道標」は、各界の識者に近未来を想像するための5つの作品やプロジェクトを紹介していただき、これからを歩むための手がかりを探すコラム企画。
今回、執筆いただいたのはゲームAI開発者の三宅陽一郎さん。ゲームのなかで出会ったモンスターがどのように考えたり感じたりするのか、デジタルゲームのキャラクターの人工知能を哲学的観点から探求してきた。そんな三宅さんに、11年後の未来を予測するためのゲーム5作品を挙げていただいた。
できれば未来を予測したいものだ。しかし、あまりに近いとすでにわかっている気もするし、あまりに遠いと自分事でないような気がする。そこで、リアリティを持って感じられる未来、ということで11年後を設定した。11年後はどんな未来が来ているだろうか? 2034年である。
2034年を象徴する5つの事象「スマートシティ」「メタバース」「デジタルツイン」「自然環境と地続きのデジタル」「ARG」から、やがて来る未来を体感できるゲームを紹介していこう。
PlayStation 4『Detroit: Become Human』(クアンティック・ドリーム、2018年)
都市そのものが自らの情報を管理し、そのうえに知能を持つスマートシティ。都市が意識を持ち、人間を守る。都市の知能はエージェント(代理)として、つまりキャラクターとして現れる。森の使いが精霊であるように、都市の使いはキャラクターAIである。
しかし、スマートシティを体験できるデジタルゲームは存在しない。もちろんそのような設定をしているゲームはあるが、スマートシティを直接感じられるようなゲームはまだ出てきていない。それだけ、スマートシティという構想は新しいということだ。そこで、ここでは近未来の都市を体験できるゲームを紹介したい。
『Detroit: Become Human』は、未来の都市を感じるなら、絶対におすすめしたい1本だ。その完成度、工夫、驚くべき体験からいっても、映画数本分の内容は優にあるだろう。舞台はやや荒廃した近未来。人工知能を搭載したアンドロイド(人型人工知能)が人々の仕事を奪っており、人間と対立している。
ユーザーは3人のアンドロイドとなって、3人の独立したシナリオが並行して進行する。アンドロイドの視点から近未来の都市で暮らし、ときには人間を助け、ときには人間と対立し、アンドロイドと人間のあいだで起こる社会的事件を解決していく。アンドロイドは自我を持つべきか、というテーマに深く踏み込んだ傑作である。また人間ではなくアンドロイドの視点から人間を見つめるという稀有な体験は今後、人工知能を考える糧となるだろう。
クアンティック・ドリーム社はフランスのゲーム会社だが、毎作品、都市のなかで社会的問題を取り上げ、交錯する大人の物語を提示している。
Nintendo Switch『あつまれ どうぶつの森』(任天堂、2020年)
メタバースとは何かと聞かれれば、『あつまれ どうぶつの森』(以下、『あつ森』)のオンラインモードと答えれば一番わかりやすい。『あつ森』はオンライン登録して遊べば、同じように『あつ森』を遊んでいる友人と最大8人で一緒に遊ぶことができる。
それぞれの『あつ森』ユーザーは自分の島を持っていて、その島の土地や建物、住人をある程度、好きなように変更することができる。友人は自分の島からこちらの島へ飛行機(ゲーム内の)で行き来する。友達が来るときは、島のゲートを開けておく必要があり、来たら一緒に話したり、自分の島や「お家」を自慢したり(これが楽しい)、釣りをしたりする。現在の子どもたちが、将来メタバースってなんだろう、と思ったとき、なんだ、『あつ森』のことじゃん、と思うはずである。
電話したらいいじゃない、という意見はある。だが違う。メタバースにおいては「自分と他人のあいだに空間をつくること」が基本であり重要である。次に、その空間を使ってコミュニケーションをすること。そのコミュニケーションには、電話にもチャットにも遠隔会議にもないチャンネルがある。それがノンバーバルコミュニケーション(非言語コミュニケーション)である。
『あつ森』では自分のキャラクターに「手を振る」「喜びのダンスをする」「拍手をする」など数十種類のアクションを取らせることができる。また、島を一緒に歩いたり、走ったり、プレゼントを渡したりすることができる。こういったアクションは、言葉より遥かに多くのものを伝えることができる。それがメタバースの良さである。
オンラインゲームというと、MMORPG(大規模オンラインRPG)を思い浮かべる方も多いかもしれない。一つの大きな世界にたくさんの人が集まる。そういったメタバースもあるだろう。しかし、より小・中規模では、自分が自分の森や島といった土地をデジタル上で持ち、そこに数人の友人が来る。そういったSNS的スタイルが大きく伸びる可能性を秘めている。
『あつ森』を使った入社説明会を行なった企業もある。メタバースよくわからないなあ、という方は一度『あつ森』を友人と遊んで、自分と相手の島を行ったり来たりしてみると、未来が見えるかもしれない。
Nintendo Switch『マリオカート ライブ ホームサーキット』(任天堂、2020年)
「存在」と言えば物理的な物を示していた時代から、現在は大きく変容しようとしている。デジタルデータが、物理的な物と同じように我々の所有物として存在するようになった。とは言いつつも、これまでは物の世界とデータの世界は別々であった。しかし、物とデジタルデータはもはや対立関係ではなく、共存できるようになった。
そんな物理世界とデジタルデータの関係のなかから、ここではARに注目しよう。『マリオカート ライブ ホームサーキット』は自分の部屋をサーキットコースにできるレースゲームだ。仕かけとしては、ゲームキットに同梱されたラジコンのようなカートを部屋に置くと、そのカートについたカメラがコースを認識。カメラで撮影した映像が、ゲーム機の画面にリアルタイムに映し出され、ユーザーはゲーム機を操作し、カートを部屋のなかを走らせることができる。
このゲームは物理世界のゲームなのか、デジタル世界のゲームなのか、と択一的に問うことに意味はない。物理世界とデジタル世界が融合したゲームである。部屋を工夫してどんどんコースを変えると、ゲームそのものが変わっていく。これはUGC(ユーザー生成コンテンツ)の新しいかたちでもある。
ゲームボーイアドバンス『ボクらの太陽』(コナミ、2003年)
2003年の今日、ゲームボーイアドバンス向けゲームソフト「ボクらの太陽」が発売されました。ゲームカートリッジに太陽センサーが搭載されており、感知した太陽光がゲームに影響するという、まさにこれからの季節にぴったりのゲームでした。 pic.twitter.com/TL5HaiCZR9
— KONAMI コナミ公式 (@KONAMI573ch) July 16, 2016
11年後には、自然環境とデジタルは地続きの関係になり、一つのシステムとなるだろう。たとえば、ある島の風の動きと同期してメタバースの草木が揺れる、天候が東京都と同期するなど、メタバースを接続することで新しい価値を持つことになる。
『ボクらの太陽』はじつに画期的な、ゲームボーイアドバンスのゲームである。ゲームカートリッジには太陽光をキャッチするセンサーが内臓され、このセンサーに太陽光が入ると、ゲーム内でも太陽光が差し込む。この効果によってゲームの状況はさまざまに変化する。
また、太陽光を集めることでMPが回復する。ゲームボーイアドバンスという持ち運べるゲーム機の特性を活かした自然環境とのインタラクションを取り入れたゲームである。そのあと、私の知る限りでは、このような自然環境とデジタルをつないだゲームは出ていないが、これからこの分野は発展していくと予想される。
Xbox『Halo 2』(バンジースタジオ、2004年)
ARG(Alternate Reality Game)は日本語で言うと「代替現実ゲーム」である。現実の世界を部分的に使いながら、創作した物語を語るユーザー参加型のイベントで、主に海外で商業的なプロモーションの手法として使われてきた。「物語の進化」であるARGは、いまはまだ日本で知名度は高くないが、11年後はよりメジャーになっているだろう。
アメリカでは9年前、『Halo 2』のリリースにあわせ、『I Love Bees』というARGが展開された。ハッキングされたという設定の架空のサイトを立ち上げて、そこに書かれている内容がじつは未来の内容という筋書き。ユーザーが解析を進めるとある座標が指定され、その場所にある公衆電話に着くと、電話がかかってきてメッセージが伝えられるというもの。ARGに実際に参加する人は少数でも、参加した人がSNSなどで情報を拡散するネットワーク外部性を使って宣伝を広めていく。
映画『ダークナイト』(2008年)のARG『Why So Serious?』は映画に先行すること1年半も前に施行され、多くの人を巻き込んだ。この原稿を書いている最中にも、ARGと思われるプロジェクト「BlueFairyChallenge」が進行している。TwitterやYouTube、LINEのAIイラストサービス「お絵描きばりぐっどくん」など複数のメディアを駆使しながら、物語の断片を見せつつ、謎を実時間で考えさせ、SNS上では考察で盛り上がっている。こういった臨場感のある語りがARGの醍醐味である。
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