キットバッシング、グローバルデータライブラリー、そして独創性の追求:マーク・フォスター・ゲージによる建築の未来について
今、デザインの世界は大きな変化を遂げようとしている。仮想世界(バーチャル)と物理世界(フィジカル)との境界が曖昧になってきているからだ。この新たな時代をリードしているのが、ニューヨークを拠点に活動する著名な建築家、作家、理論家であるマーク・フォスター・ゲージだ。彼が創り出す、デジタルツールと物理的な素材を見事に融合させ、視覚的に圧倒される斬新な建築プロジェクトは、この新時代を象徴している。彼のクリエイティブ・プロセスの特徴といえば、さまざまな分野の3Dオブジェクトを組み合わせ新しい物を作り出す技法であるキットバッシングだ。今回、GEMINI Laboratory Global Design Awardsの審査員として、ゲージはデザインの未来についての自身の見解と、コンクール参加者に期待することを語ってくれた。
ゲージの最近のプロジェクトのひとつ、エレナン・リゾート・ネオムは、まさに彼のユニークなアプローチを表現している。キットバッシングと高度なデジタルツールを活用することで、ゲージと彼のチームは複雑かつ視覚的に豊んだデザインを作り上げ、リゾート建築の伝統的な概念に挑戦した。このプロジェクトでは、デジタル素材を活用することでバーチャルとフィジカルを融合させ、斬新で人びとを魅了する建築が生み出せることを実証している。


マーク・フォスター・ゲージ著「Architecture in High Resolution」
仮想と現実の間をつなぐ
バーチャルとリアルをつなぐ
デジタルと形ある物のシームレスな融合は、ゲージにとってデザインの新たな可能性を引き出す鍵だ。バーチャルとリアルをつなぐグローバル・データ・ライブラリの構築というコンセプトに、彼は可能性を大いに感じている。「グローバル・データ・ライブラリにアクセスすることは、必要不可欠であると同時に、建築のクリエイティビティにとって非常に有益なことだと思います」とゲージは語る。「最終的には、歴史上のあらゆるオブジェクトが3Dモデル化され、すべての建築家が、これまでに発明されたすべてのオブジェクトにアクセスできるようになるでしょう」。
グローバル・データ・ライブラリは具体的にどう有用なのか。ゲージは鶏を例に挙げて説明する。「現在、ほとんどの建築ソフトは、立方体、球体、ピラミッドのような基本的な形状にしかアクセスできません。しかし、もしかしたら鶏の形が必要になることがあるかもしれません。柱のデザインとして鶏の足のような曲線が必要だからです」。彼は、鶏の脚のような曲線の柱をモデリングするには、1週間はかかると指摘する。しかし、グローバル・データ・ライブラリにアクセスすれば、建築家はニーズに合った複雑な幾何学的形状を見つけられ、デザインに取り入れることができる。
グローバル・データ・ライブラリの膨大なデータは、建築家やデザイナーにとって、新しいデザインに挑戦し、さらなる可能性を広げる非常に強力なツールとなるだろう。ゲージは、クリエイターが「曲線の円柱」など特定の形状や性質で検索すると、鶏から花に至るまで多様な選択肢が提示されるようになると期待する。「かつて私のオフィスでは、本や3Dモデリングから抜粋したフォームを使い、キットバッシングをしていました。そのためにこの20年間で本を買いあさりました。しかし、今のクリエイターや学生たちは本を買わなくてよいのです。その代わりに、グローバル・データ・ライブラリを使えば、膨大な数の形状やフォームにアクセスできるでしょう。その方が桁違いに便利なのです」。

キットバッシングで発揮されるクリエイティビティ
ゲージは10年以上前からキットバッシングを活用してきた。このテクニックで使用する3Dオブジェクトのほとんどは、ビデオゲームや映画などの分野ですでにモデリングされたものである。これらをユニークな方法で組み合わせることで、ゲージと彼のチームは伝統的な建築の概念を覆す視覚的に豊かで複雑なデザインを生み出せている。
しかし、現在入手可能な3Dオブジェクトは制限されており、結果的にSF的な表現になってしまうことがあるとゲージは指摘する。「私たちが見つけたのは、映画やビデオゲーム用にデザインされたものだけでした。私たちが最初にキットバッシングにより製作したプロジェクトのひとつが、ウェブサイトにも掲載しているヘルシンキ・グッゲンハイム美術館です。映画『マイティ・ソー』で使用されたオブジェクトを見つけたので、トールハンマーの他、いろいろなものをダウンロードしました」。より多様なグローバル・データ・ライブラリにアクセスできれば、建築家はより幅広い可能性を追求できると彼は考えている。「つまり、自宅の本棚にある本を読むのと、10億冊ものGoogle Booksにアクセスするのとでは、まるで違うということです」とゲージは説明する。

GEMINI Laboratory GLOBAL DESIGN AWARDSへの期待
GEMINI Laboratory Global Design Awardsの審査員として、ゲージはどんなクリエイターたちが応募してくるのか期待に胸を膨らませる。彼はオリジナリティの重要性を指摘し、応募者にそれを追求してほしいと呼びかけている。「賞を取る方法は2つしかありません。ひとつは、すでに存在するものをさらに良いものにすること。もうひとつは、誰も見たことのないものを創り出すことです」。
しかし、ゲージにとって後者の方がはるかに印象的で価値があるという。このコンペティションの利点は、新しいテクノロジーとデータ・ライブラリに焦点を当てていること。それを最大限に生かし、驚きとオリジナリティに溢れ、これまでの枠にとらわれないデザインを創造するクリエイターを彼は期待している。「私はいつも、前者よりも後者に賞を与えたいと思っています。新しい技術をテーマとしたこのコンペティションにふさわしく、誰も見たことのないようなものが受賞作品の一つの基準になるでしょう。私がオリジナリティを高く評価するのは、それが非常に貴重で、とてつもなく難しいからです。」とゲージは説明する。

世界にインスピレーションを求めて
ゲージの新たな発見への熱意は、デジタルの領域にとどまらない。彼は、世界中を旅して自分がまだ知らない文化や環境を直接体験することが重要であると訴える。ゲージは今までに100カ国近くを訪れ、さまざまな文化や生活様式に触れてきた。たとえば極寒の北極圏から孤立した北朝鮮の首都ピョンヤンなど。こういった経験は彼のオリジナリティとクリエイティビティに拍車をかけてきた。
「学生はもっと世界を見るべきです。ニューヨークや東京のような多くの人が訪れたことがある大都市はおすすめしません。マンハッタンのダウンタウンよりも、自然が豊富な場所の方が、独創的なものに出会える可能性はずっと高いはずです」。
このように、ゲージは、建築家やデザイナーがパリやローマ、東京などこれまで多くの建築家が研究してきた場所ではなく、地方やあまり知られていない地域に行ってみることで、オリジナリティのある作品を作り出すチャンスが増えるかもしれないと考えている。「そういった建築家が増えてくると、これから数十年がとても楽しみです」と期待する。そうした環境に身を置き、自然やその土地の文化からインスピレーションを得ることで、クリエイターはユニークでインパクトのあるアイデアを生み出すことができる。



デジタルとフィジカルをつなぐ
ゲージはキャリアを通じて建築家やデザイナー、アーティストや技術者など、さまざまなクリエイターと密接に仕事をしてきた。彼はこうしたコラボレーションは、デザイン業界の発展に不可欠なものだと考えている。「本当に面白いのは、デジタルな世界とフィジカルな世界とのつながりです。つまり、建築として一番魅力がないのは3Dプリンティングだと思います。なぜなら、ただ同じ素材で作られた建物がたくさんできてしまうだけだからです。それよりも、例えば木の特性や製材する方法を深く理解してから使用する方がずっと面白いのです」。
ゲージが注目するのは、デジタルツールを物理的な素材や技術と組み合わせる新しい方法を模索しているクリエイターだ。こういったアプローチは建築やデザインをこれまでとは大きく変化させる可能性がある。そして今まで実現できなかったアプローチを可能にするとゲージは考えている。「3Dモデルが単なる一般的な3Dモデルではなく、実際に存在する素材を使って表現される次のレベルにアクセスできることは、とてもエキサイティングなことだと思います」と彼は説明する。
まもなく開催されるGEMINI Laboratory Global Design Awardsを前に、これらマーク・フォスター・ゲージの洞察は、新クリエイターへのエールとなるだろう。新しいテクノロジーを柔軟に取り入れ、ユニークな環境を探求し、分野を超えてコラボレーションすることで、建築家やデザイナーはオリジナリティあふれるインパクトのあるものを創り出せるだろう。
ゲージの考えるデザインの未来とは、バーチャルとフィジカル、デジタルとマテリアルをシームレスに統合すること。想像力を膨らませ、身の回りの世界にインスピレーションを求め、驚きや歓喜を与えるデザインの創造が応募者に求められる。グローバル・データ・ライブラリの大きな可能性と、クリエイターたちの新たな創造性によって、可能性は無限に広がっていることを忘れずに。
アワード概要
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GEMINI Laboratory GLOBAL DESIGN AWRDS
GEMINI Laboratory GLOBAL DESIGN AWRDS
「ミラーワールド」の実現を目指す共創プロジェクト「GEMINI Laboratory 」が、初のデザインアワードを開催する。 いま、仮想世界(バーチャル)と物理世界(フィジカル)は重なりつつある。テクノロジーと個人の創意が生成し続ける、バーチャルな「質感」や「かたち」。それらは「音」や「匂い」や「時間」、果ては「知能」すら内包しはじめている。 GEMINI Laboratoryが構築しているプラットフォーム「AltField」は、多層世界が作用し合うオルタナティブな情報空間を共有・編集可能にすることで今までにない、新しいデザインを可能にするデータライブラリーだ。 バーチャルとフィジカルの地平が溶け合う時代における、新しいデザインのアプローチを具体的なアイデアとともに募集したい。 五感、時空までも横断して素材を捉え、新たな世界観を構築しよう。 応募開始:2024年2月15日(木)12:00(日本時間正午) 応募締切:2024年4月29日(月)12:00(日本時間正午)
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細谷元(Livit)
ライター
細谷元(Livit)
ライター
ZBrush、3ds Max、Houdini、UnrealEngine4/5を活用したコンテンツ制作プロジェクト(VR含む)などに従事。現在は、生成AIアプリケーション開発、RAG手法の最適化研究に注力。
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中井千尋(Livit)
翻訳
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