ゲームを通じて社会課題に挑む。米「Games for Change」が信じる娯楽を超えた価値

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利用者の増加や新たなテクノロジーの登場で、日々拡大と進化を続けているゲームは、いまや単なる遊びではなく、教育や医療といった領域にも貢献できるコンテンツとして注目されている。

そのようなゲームについて「娯楽を超えた価値を持つ、社会変革をもたらしうるテクノロジーだ」と語るのは、2004年の設立以降、ゲームを通じた社会変革に挑み続けている米NPO団体「Games for Change(以下、G4C)」代表のスザンナ・ポラック。同団体のミッションや活動内容、そしてポラック氏の考えから、ゲームが秘めている可能性とこれからの社会とゲームの関係性を探った。

Games for Change代表、スザンナ・ポラック

ゲームで世界をより良くしていく。世界に拠点を持つ「G4C」の取り組み

─まず、「G4C」の活動内容について教えてください。

ポラック:私たちは、ゲームやイマーシブメディアと呼ばれるVRやARなどの没入型コンテンツを提供する媒体を深く学び、使っていくことによって、世界をより良くしていくということをミッションに掲げています。各地の支部や世界中で行なうプログラムを通して、このミッションを実現するための活動をつづけています。

具体的な活動内容は多岐にわたりますが、一番広く知られているのは、毎年1回、ニューヨークで開催している大型イベント『Games for Change Festival』ですね。そのほかにも、青少年たちと一緒に社会課題の解決につながるようなゲームを1年間にわたってつくり上げていく『Games for Change Student Challenge』をはじめ、たくさんのプログラムを行なっています。

また、2017年には「XR for Change」というプロジェクトも立ち上げました。このプロジェクトでは、ARやVRといった最新のXRテクノロジーが、いかに社会的に良いインパクトを与えることができるのかを模索しています。

2022年の『Games for Change Festival』の様子。教育や社会課題、健康とウェルネスなどに関わるゲームやテクノロジー、没入体験にフォーカスしたトークなど、100以上のセッションが行なわれる。2023年は7月18日〜20日にThe Times Centerで開催(サイトを見る

─さまざまな活動を行なっている「G4C」ですが、そもそもどのように設立されたのでしょうか?

ポラック:私自身が組織に参画したのは2014年で、2004年の設立時には関わっていなかったのですが、当初は「ゲームには娯楽以上の価値がある」と信じていたゲームデザイナーや研究者、教育者たちが40人ほど集まって設立されました。彼らが『Games for Change Festival』を立ち上げ、意見交換をするコミュニティーのための場としてスタートさせました。

─スザンナさん自身は、ゲームのどういった点に、娯楽以上の価値があると感じていますか?

スザンナ:ゲームがほかのメディアと異なる点の一つに、「インタラクティブ性」があります。双方向のコミュニケーションが可能であることから、プレイヤーはゲームが扱うテーマや課題に、より主体的に関わることができるんです。これにより、ゲームをとおして深い学びや複雑な問題を考えるきっかけを得られるだけでなく、新しい視点の獲得や他者とのコラボレーションといったこともゲームのなかで起きています。

こうしたさまざまな可能性を秘めているゲームは、新しいアイデアのプロトタイプや、ひいては社会の変革をもたらしうるパワフルなテクノロジーなのだと思っています。

ADHDの治療や、核兵器の脅威の追体験。現実の社会課題に取り組むゲームやVR作品

─ゲームで社会課題を解決する新しいアイデアや、現実社会へのポジティブな影響につながった事例には、どのようなものがあるのでしょうか?

スザンナ:数多くありますが、カリフォルニアの科学者がADHDの治療のために開発した『EndeavorRx』(Akili Interactive Labs)というビデオゲームが一例として挙げられるでしょう。効果も行政機関であるFDA(アメリカ食品医薬品局)に正式に認められ、いまでは医者が子どもたちのADHDの治療のためにゲームを処方する、といったことが起きています。

『EndeavourRx』は、主に8歳から12歳の子どものADHDの注意機能を改善するデジタル治療として、アメリカのベンチャー企業Akili Interactive Labsが開発した

スザンナ:また、ゲーム以外にもVR体験で興味深い作品があります。VRの世界で、核兵器の脅威が間近に迫った世界を体感できる、『On The Morning You Wake(To the End of The World)』という作品です。

これは「ハワイに弾道ミサイルが落ちる」という誤警報が住民の携帯電話に通知されてしまった、2018年に実際に起こった事件をきっかけにつくられています。誤報ではありましたが、知らせを受け取った人たちは「本当に核爆発が起きるかもしれない」という実感を恐怖とともに感じ、パニックに陥りました。それを受けてこの作品では、「実際に核の脅威が迫ったらどうなるのか」をVR上で表現し、人々に核兵器や核軍縮についてあらためて考えるきっかけを与えたんです。

VR作品『On The Morning You Wake (To the End of The World)』トレイラー映像

─そのような社会に良い影響を与えるゲームづくりに、「G4C」が直接関わることもあるのでしょうか?

スザンナ:そうですね。例えば、ノルウェーのオスロにあるノーベル平和センターとマインクラフトと協業して開発した『Active Citizen』があります。

学校で使用することを想定した「Minecraft: Education Edition(教育版マインクラフト)」のなかの新しいワールドとしてリリースされたものですが、プレイヤーである子どもたちは、社会に関わる市民となって、平和構築への貢献を体験することができます。ダライ・ラマさんやマララ・ユスフザイさんなど、過去の『ノーベル平和賞』受賞者たちが『マインクラフト』の世界のなかに登場し、どのように平和を実現していけるのか、具体的な事例を楽しみながら学べるようになっています。

Games for Changeがノーベル平和センターとともに制作した『Active Citizen for Minecraft』

─さまざまな事例があるなかで、ゲームが実際にプレイヤーや社会に対して持ちうる効果や可能性は、どのように測定されているのでしょうか?

スザンナ:それぞれのゲームがどのような目的を持っているのかにもよります。例えば、ADHDの治療に使うゲームであれば、薬の治験のように、何度も臨床試験を行なって効果性を示すプロセスが必要ですし、数学を子どもに教えるゲームであれば、ゲームで教育を受けた子どもとそうでない子どもで数学のテストを行なう、といった比較検証が必要となります。

一方で、平和構築などの大きなテーマは、すぐに効果が出るものではなく、かつ一つのゲームでそれを成し得た、とは言いづらいものでもあります。そのため、ゲーム単体ではなく、ほかの活動も含めて一つひとつ着実に実績を積み上げていき、効果を見ていく必要があると感じています。

ゲームに対するネガティブなイメージを払拭するには?

─ゲームにはお話いただいたようなポジティブな可能性がある一方で、「ゲームのし過ぎは子どもの教育に良くないのではないか」といったネガティブな意見も存在するかと思います。

スザンナ:たしかにそういった考えもあります。でも、ここ100年ほどを振り返って見ても、新しいメディアが出るたびに、そのメディアが社会的な課題の原因とされてしまうことが多々ありましたよね。例えば音楽だと、ロックが普及し始めた1960年代に、当時の若者たちの悪い行ないの原因の一つがロックだと言われていたことがありましたし、テレビが出てきたときにも、脳に悪影響があるといった考えを持つ人もいました。

だから同じようにゲームについても、一般的に普及してきた現代において、社会にネガティブな影響を与える要因とされてしまうこともあるとは思います。ただ、そうした考えは、科学的根拠がないことがほとんどです。例えば、ゲームのなかで出てくる暴力的なシーンが、実社会の暴力行為に結びついているかというと、両者には相関性がないということがこれまでの研究で明らかにされています。

Games for Changeが取り組むイニシアチブ「Raising Good Gamers」では、米カートゥーン ネットワークが展開する、オンラインゲーム空間でのいじめ問題に対するキャンペーン『Stop Bullying: Speak Up』とパートナーシップを結んだ

─ゲームに対するネガティブな考えを払拭するために、「G4C」としてはどのような発信をしているのでしょうか?

スザンナ:私たちの活動すべてにおいて、ゲームそのものやゲーマーであることが、若い人たちにどれだけ価値があるものなのかを理解してもらえるような発信を心がけています。そのためには、ゲームにまつわる語り方を時代に合わせて変えていく必要があると思っています。

特にいまは、ゲームを通じて友情を育むといったことも起きていて、ゲームが社会的なプラットフォームとして機能し始めています。そういったゲームの価値への認識が人々のあいだで徐々に浸透しているようにも思いますし、私たちもより広く社会に理解してもらえるよう、活動していく必要性を感じています。

Games for Changeのワークショップの様子

コロナ禍をきっかけに起きた、ゲームへの認識の変化

─「ゲームの価値への認識」が人々のあいだで広がり始めたのには、何かきっかけがあるのでしょうか?

スザンナ:世界的に起きたコロナ禍は、大きな要因の一つだと思います。人々が孤立状態となったときに、多くの人がゲームを通じて、人とのつながりや社会性を維持することができました。

コロナ禍は、ゲームに対する人々の意識に、今後も影響を及ぼしていくような出来事だったのではないかな、と思っています。ゲームの価値に対する理解が世界的に促進され、政府の教育政策などのレイヤーにも変化をもたらしていると思います。

─そうした変化は、「G4C」にも影響を及ぼしたのでしょうか?

スザンナ:非常に大きなインパクトがありました。さまざまな組織や団体に加え、国連や世界経済フォーラム、アメリカ合衆国政府といった大きな組織が、ゲームを用いたコミュニケーションに興味を持ち始めたことは大きな変化です。それぞれが関心を持っているトピックや課題に対して、私たちと一緒にゲームでアプローチする、といった取り組みが現在増えています。

国連環境計画(UNEP)オゾン事務局が制作した、環境保護の必要性について学べるシミュレーターゲーム『APOLLO’S EDITION』

スザンナ:また、「G4C」のコミュニティーにも変化がありました。教育やNPO団体といった異なるコミュニティーからの参加者が増えたことに加え、参加者の国籍も多様化しています。コロナ禍で『Games for Change Festival』をフィジカルではなく、バーチャルで開催したところ、127か国の人が参加してくれ、ゲームのポジティブな可能性が世界中から注目を浴び始めているのだ、と実感しました。私たちが世界の各地域に支部を立ち上げたのにも、こうしたことが背景にあります。

ゲームをつくる人が多様になれば、語られる物語も多様になる

─ゲームに興味を持ち、コミュニティーに参加する人や組織が多様化する中で、「G4C」の意識や活動内容にはどのような変化が起きたのでしょうか?

スザンナ:ゲームに対する関心がよりグローバルになっていることで、「遊ぶ」だけでなく、「つくる」というアプローチの重要性を改めて感じています。ゲームをつくる人が増えていくことで、扱われる課題や物語が多様化していくはずです。

そのため、私たちがいま重視して取り組んでいるのが、ゲームデザイナーを育成するためのカリキュラムです。ゲームを通じて社会をより良くする、といったビジョンを前提に、気候変動や平和構築、多様性に富んだオンライン空間の設計といったテーマを毎年設けて、1年を通じてゲームをつくり上げていくものです。

貧困などの理由から、ゲームデザインに関する教育を受けられない若い人たちを対象にしていて、最初はアメリカに始まり、現在は中近東地域にまで活動の領域を広げています。今後は、より多くの国で展開していきたいですね。

Games for Changeのワークショップの様子

─ゲームをつくるクリエイターが増えていくことで、今後、さらに新しい視点が生まれてくるかもしれませんね。

スザンナ:そうですね。ゲームはつまるところ、物語を語るための形式であり、プラットフォームです。語られる物語や文脈によって、ゲームはさまざまな使われ方をしていきます。

そして、人にはそれぞれ、語るべき体験や物語があります。ゲームを通じて物語を語れる人たちを拡大していけば、ゲームに多様性が生まれ、新しい機会や価値がどんどん創造されていく。どんなゲームがつくられ、そこにどんな機会が生まれるのか──ゲームの可能性は果てしないものなんです。

スザンナ・ポラック

  • Games for Change(G4C)の代表として、米メディアから「ビデオゲームのサンダンス」と称される『Games for Change Festival』で知られる組織を率いる。2013年にニューヨーク市教育局と共同で開発した学習プログラムである「G4C Student Challenge」は、7つのパートナー都市で毎年10,000人の生徒が参加するまでに成長。またこれまでにアメリカン・エキスプレス、ベライゾン、AARP、国連、エピック・ゲームズ、カーネギー財団、オートデスク、アドカウンシルなどのクライアントと提携し、多数のG4Cプログラムを立ち上げている。Games for Change以前は、BBC Worldwideで14年間さまざまなポジションでシニア・バイス・プレジデントを務めるなど、商業および公共セクターで活躍してきた。

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  • 石塚振

    ライター

    石塚振

    ライター

    編集者・ライター。1992年生まれ。2016年〜2021年まで、ファッション週刊紙『WWD JAPAN』にて、記者として雑誌・メディア業界とデジタル領域(EC、ファッションテックなど)を中心に取材。2021年に退社。現在はメーカー企業でマーケティング業務に従事しつつ、フリーランスで編集者・ライターとしても活動中。

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